「朝食の…手伝いを。ごめんなさい,何かいけなかったかしら」



私が答えると,蘭華は頭痛でもするかのようにため息を吐く。

そして後ろに控えるサムを差し出した。



「それならそうと,せめてサムには伝えてくれないかな。可哀想に,血相変えて僕のところに来たんだから」



サムはびくびくと心配そうに,上目で私を見る。

確かに,私を任されている身としては気が気じゃなかっただろう。

蘭華にも既に怒られたと見える。



「ごめんなさい,サム」



サムの頭に,ふるふると震える動物の耳のような幻覚を見て,私はついそっと片手を乗せた。

その瞬間,サムの身体に緊張が走り,ピンッと張詰める。

どうしたんだろうと柔らかい頭を撫でていると,サムが掠れた声で「いえ」と答えた。



「お,れは。凛々彩さんが帰っちゃったのかと思って…」

「え?! 私は逃げたりしないわ!」

「本当ですか? ここは凛々彩さんにとってとても怖い場所なんじゃ」

「私はサムの事だって大好きなのよ…? だから,急にいなくなったりしない。ちっとも怖くなんてないわ」



じわじわと染まっていく頬を眺めていると,サムは俯いて,それきり私に大人しく撫でられる。

後ろでアンナが微笑ましそうに,そしてどこか面白そうに私達を見ていた。