アンナは出来立てのカレーをおたまで掬って,ご飯によそうと私の前に置く。
「…いいの? 皆もすぐ……」
私が尋ねると,アンナはニカッと笑って
「いんだよ。凛々彩が作ったんだからね,文句は言わせないさ」
そう言った。
ついでに丸いすを出されてしまっては跳ね返すのも心苦しい。
私はほっと微笑みを返して,厚意に甘えることにした。
「いただきま…」
スプーンを持って,手を合わせようとした時。
ドタバタと大きな足音が聞こえてくる。
「なんだい,朝から。騒がしいね」
その騒々しさにアンナが眉を潜めると,それはキッチンの前で止まった。
ーザンッ。
とうとう襖が開かれ,目を大きく開いていた私はさらに瞼を持ち上げる。
「アン…」
「どうかしたの,蘭華……?」
ただならぬ表情を浮かべていたその人は,私を確認するなり虚をつかれたような顔をして。
私やアンナ,他の男達と同じ様に,瞳を大きく見開いた。
「え……凛々,え? 君,こんなところで何してるの?」
けれども,そんな珍しい表情も一瞬で。
そこに浮かべられる笑みには,黒い何かが宿っていた。



