「凛々彩,あたしはアンナ。気軽に呼んどくれ。朝食と言ったね,料理は出来るのかい?」

「ええアンナ。お菓子の方が得意なのだけど」

「お菓子?」

「昨日のマカロン,あれも作ってみたいわ。時間があればでいいの,いつか教えてくれないかしら」

「よくあたしが作ったものだと分かったね」



そうね,お菓子作りなんて繊細な事が出来るのは。

してくれるのは。



「そんな気がしたのよ」



アンナだけだもの。



「じゃあ,朝食が終わってからにしよう。さ,中に入っとくれ」

「! じゃあ…!」

「お手伝い,よろしく頼むよ」



アンナは私に,顔を一杯に使って笑顔を向けてくれた。

アンナにはたかれた男が持ち出したような軽食,サンドイッチを作ってしまって,ようやく朝食に取りかかる。

日替わりな男の人数とアンナのみで組織中の
朝食を回しているのだから,本当にすごい。



「いい匂い……」



自分で作っておきながら,私はふわりと表情を緩めた。



「中々の腕だね。朝から食べるカレーは食欲を刺激して,ここの人間には丁度いいのさ。目も覚める」



その笑みには,深い慈愛が乗っている。

息子同然の人達もいるからだろう。

もう何年もアンナはここで働いている。

アンナはこの組織に拾われて育ち,さらにはこの組織内に旦那がいた。

心配だろうに,いつもここで送り出しているのだ。

恩と愛情,それがこの組織唯一の女性,アンナが組織に身を置く理由。

自分だって,安全ではないというのに。



「はい凛々彩」