何もかも着替えてしまって,大きなベッドに横になる。



『似合ってるよ』



今更ながらに頬がほでり出した。

蘭華は,蘭華なのかな。

すっと熱が冷める。

他の皆は?

本当は1ヶ月もだらけてなんて居たくなかった。



『嬢ちゃん!』

『姫さん!』

『凛々彩ちゃん』

『娘っ子』



だけど,皆に他人として接されるのが嫌で。



『あ"? 何してんだこんなとこで。さっさっと部屋戻って大人しくしてろ』

『うろちょろしてっと殺すぞ』



警戒されるところからの始まりが悲しくて。

前みたいに,お屋敷の手伝いなんて名乗り出る気にはなれなかった。



『いつもありがとね。今日はアップルパイでも作ろうか』



赤い髪と笑顔のよく似合う,優しい人。

まだまだ若さを感じさせる,尊敬できる女性。

アンナ……

彼女が居たから,私はここでもちゃんとやっていこうという気になれた。

私は熱く感じる目蓋をそっと伏せる。

目的を忘れてはだめ。

私が戻って来たのは,蘭華の為だもの。

ここに居るだけで,奇跡なのに。

それ以上を望むなんて,贅沢。

それに,蘭華に近づくなら,やっぱりお屋敷の人とも交流を持たなくちゃいけない。

だからやっぱり,明日も部屋を空けるけど。

……

私は,あの大粒の雨を信じてる。

だから,まだ大丈夫。

今日の空は,青かったっけ……