直前まで私と合っていた目が生気を失う。

それにショックを受けるだけの余裕を持つものなど,1人もいない。



「悪ぃ,蘭華! 夜雅が逃げる!!!」



重症を負っているとは思えない身のこなし,塀を越えようとしゃがんでいた。

最後にまた悪い趣味を見せたのか,近くの太い枝を折り,子供のようにベルトゥスへ投げつける。



「……逃がしたっていい! それに」



どうせもう死ぬ。

そう言葉を飲み込んだあと,たった1点を集中するように見つめ。

蘭華は2発発砲した。

すぐに弾を詰める様子が,手慣れている。

蘭華は目線を外さなかった。

落ちていく夜雅のふくらはぎに1つ,肩に1つ。

夜雅は体勢を崩しながら,落ちた。

それでもまだ,1秒すら止まらず。

夜雅はどこかへ進んでいた。



「凛々彩……!!!」



蘭華が私へ駆けてくる。

夜雅の手下がざわめき戸惑い,追い詰められながら撤退していく。



「蘭華」



どちらの抱き締める強さなのか分からない。

ただ痛いくらいに,私は蘭華にも抱き締められていた。