周りは皆敵だらけ。

味方は皆,私を囲うだけの余裕はない。

フライパンの人達はとてもじゃないけれど遠すぎるし,カイは2人も足止めしてくれている。

じゃあ,どこに走るか。

どうせ敵しかいないなら,蘭華の方へ走るしかない。

私は命を懸けて走った。

止まったら,死ぬと思うから。

ベルトゥスの後頭部が見える。

やっぱり彼等の側は,皆が邪魔だけはしないようにと空間を空けていた。

すぐに辿り着けるはず。



「っベルトゥス!」



蹴りを入れた裏側で,脇腹へ躊躇なく振り下ろされるナイフに,私は叫んだ。

少し離れたところから彼等を追う蘭華が気付いたお陰で,ベルトゥスは窮地を脱するものの。

バカね,私。

ほとんどが違う,けれど既視感しかないこの様子。

次に起こることが,見えてしまった。

私の左手,沢山の人の向こうに構える1人の男。

ナイフを持った手を撃ち抜かれた夜雅が,愉しそうに唇を開く。



「 撃 て  」



私の壁になる沢山の人の隙間から,命令通り男が狙ってきていた。

蘭華は夜雅の心臓部を狙い,追っている最中。

あぁ。

ねぇ蘭華,前はあの人じゃなかったわね。

最初に狙われたのも,あなたの方だった。