『昔々,戦争にもっぱら強いある国が,様々な国から知識の少ない奴隷を選び,国に囲まれるように存在していた誰も住んでいない土地に住まわせた』

『その国は,ちぎれたドーナツのように,転々とした島,そして1つの大陸によって構成されていた』

『すると今度はその土地を囲うように硬く高い塀を立て,必要最低限の高さの住宅建築を教えた。一方,島の中心にはこれでもかと言う高さの真っ白な教会を立て,信仰心を認めた。ま,そんなの国からしたら家の塀程度の高さだがな』

『教会には指南役の国の人間を置き,指南役は島民に言語などの教育を施し,人口からなにまで全てを監視·統制した』

『奴隷人口は黙っていても増え,今や900万にも上り,滑稽な土地区分がなされようと,教会はなお善の顔をしてその威厳を誇っている』

『島民の寄付で子供をまた一人拾い,都合良く育て,他の島民にも教育や書物を無償提供している。捏造された歴史,それから島の辿って来た大したことのない歴史しかないがな』

『つまり,今や金持ちの尊敬される人間しかなれない,教育に纏わる人間だって,もともとは外部の人間だった。その教え子が次第に育ち,同じほとんどが作り話な話をバラまく様になったのさ』

『物資や食料だって,その島の人間はどこでどう作られ,原料はなんなのか。何一つ知らずに享受しているが,実は』

『丸く囲まれたその島は,囲まれた外側に一ヶ所,出っぱった作りになった場所がある。そこに月に6·7回,真夜中に音の少ない小さな船が何隻もやってくる。塀に近づけば,その場所だけが扉になっていて,そこを出入りする人間によって島の殆どが賄われている』

『その出入りする人間が,島の配達人や,存在しない卸会社の卸業者,と言うわけだ。島の人間の顔をして挨拶を交わすあいつらも,皮を剥げば(みな)他人』

『だから,いくら教会に貼ってある求人を見ようと職種は現在募集なしと書かれている。あれは怪しくないと,ただたまたま手が足りていると思わせるための,見せかけの紙切れだ』



「そんな大掛かりなこと……周辺の人間が気付かないわけが……!」



視線を合わせられ,不気味さに喉を鳴らす私が口を開く。

何の話かはさておいて,どこの話をモチーフにしているのかは分かった。

それを,さも事実かのように私へ語っている。



『まぁ,ここは見たこともなく,品物の調達方法も製造方法も分からない,そもそもない会社を"ある"と思い込んでいるような間抜けの集まりだが,そうだな。でもよく考えてみろ』



島の出っぱりがあるのは,貧民街。

その手前,島の中央側が,南の土地とよばれる夜雅のテリトリー。

そこが既に危ない土地で有名なので,誰も貧民街には行かず,見ることもない。

住民が貧民なのは,言語も乏しく,汚く,金も食料もないためで。

お優しい教会が放置するのは,その方が都合がいいからだ。

貧民は定期的に採血をされ,何日かは動けず,たまに配達の人間による配給で生きながらえる。配給の代わりに,ここからこっちは入ってくるなと線を引かれ,少しでも入ったのが分かれば秘密厳守のため貧民全員の前で殺処分。

『疑問を抱かせない島運営。全て,次起こるやもしれぬ戦のため。ここは他のどの国も知らない,最も都合のいい島。軍事基地であり,経済を回す場であり,食糧庫であり,避難場所である』

『そうなったら,面積を取るだけの住民は皆殺しだがな』

『見た目もバラバラで,同じ俺の母国の言葉を話し,国や海という言葉をしっているくせに,その実見たこともない。いざこざや殺しは日常茶飯事のくせに,戦争すらしらない』

『変化を禁忌とする島はいつしかimmobile island(動かない島)と呼ばれるようになった』

『……その目は,俺が母国と言ったからか? 俺はその"国"に育てられ重宝された,殺しの才能に溢れた子供だった。諜報や暗殺のために密やかに育てられた,元孤児の子供』

『しかし俺はその仕事に飽いて,そんな時……島に物資を運んでいた俺の乗った船が,うっかり沈没し』

『生き残り,運搬場所に流れ着いた俺はこれ幸いと逃げ仰せ,人間を2人殺し,そのあと捨て子のフリをして教会に入った。だから,このしまでの名字も,ない』

『俺の目にはこの島はとても異質に見える。だが……愉快で何より面白い。だから,俺は俺の,俺のための土地と中でも愚かな人間を得た』

『頭のキレるやつと無駄な好奇心ばかり膨らませるやつはすぐに暗殺される運命であるから,すこしくらい愚かな方が面白いのさ』