「ほお,小娘にしては美しい」



突然音もなく湧いた声に,私はびくりと両肩を揺らす。



「……だれ?」


もうずっとここにいる私に,そんな物言いをする人はいない。

警戒心を強め,振り向き,驚く。

タイプで言えば断然蘭華に劣るが,人形のように綺麗で精悍な顔。

妖しげな雰囲気にも,思わず飲み込まれそうになってしまった。

よく見てみたいと思うけれど,髪をまとめ入れたキャップに瞳が陰っている。



「失礼。最近ここに入れて貰った所でな。娘,名を何という?」

「……凛々彩,凛々彩よ」



少し,年上。

それ以上の情報を得られないまま,逆に名乗りもしないその人は勝手に隣へ座った。

すす,と距離を開けてしまう。



「そうか,なら少し,昔話でもしよう」



何故? そう問いかける猶予もない。

私の反応を楽しむように,名も名乗らぬ男は弧を描いた。

ゾワリとした感覚に,そわりとからだが震える。

屋敷にいるなら,安全な人……なのよね?

蘭華の名前が,頭に浮かんだ。