「……凛々彩,離れて。今すぐに」
えっと私は声をあげた。
力を緩めると,それでは足りないと言うように。
また離れてと言われる。
それが,冷たいと言うより単に蘭華が焦っているように聞こえて。
私は腕を外し,正面にすとんと座った。
「?」
蘭華と私の間に,沈黙が流れる。
蘭華は何度か口を開いて,閉じて。
とにかくよくは分からないものの,私を遠ざけようとしていた。
「蘭…… ?!」
蘭華の顔を覗き込み,肩に手を置こうとして。
私はごりっとした硬い何かに躓く。
小さく悲鳴をあげて目を瞑ると。
私は蘭華の胸板に手をついて,つまり,気付いた時には蘭華を押し倒していた。
「ご,ごめんなさい。他意はないの。ただ,何かに躓いて……」
あれ? と私は言葉をとめる。
さっきまで私が寝ていたのに,躓くものも何もない。
蘭華の足はちゃんと目に映っていた……し。
強い力で,腕を引かれる。
私は蘭華の上に落ちて,慌てているうちに上下が逆転した。
柔らかい背中を気にする余裕もなく,ただ真正面の蘭華が瞳に映る。
縫い付けられた手首に,じわりと眉が下がり,頬が熱くなった。



