「凛々彩に許可なく触れて,手を引いて,拐っていきそうだから。それなら,凛々彩を一生ここに閉じ込めておいた方がまだましな気がするよ」



蘭華は髪の毛をよけるように私の顔に触れる。

蘭華の細い指がさらりと動き,私はぴくりと顔に力を込めた。

本気ではないけれど,検討するようなその声色は。

蕩けるように,どろりと甘い。



「なんてね」



そう言いながらも甘さの抜けない声と微笑み。

腰を浮かそうとして,蘭華は寝台に置いた片手に力を込める。



「どうして,そう思うの?」



言ってしまって。

その恥ずかしさのあまり,私は後悔に唇を噛んだ。

大胆な事を言っている。

その上,勘違いかもしれない。

でも,大事とか,交渉材料とか。

双極の気持ちでもなくて,ただ。

渡したくないだけって,都合よく聞こえてしまったから。