低まった声,せせら笑う口調。
なのにまるでぶちキレたように浮き出るこめかみ。
「カ,カイ?」
「あぁ,なに? リリー。あの頃お互い友達いなかったもんね,憶えててくれて良かった。俺,ここに移ることにしたから,よろしくね」
前世も軽く言って,ベルトゥスの許可を本当にもぎ取ってしまったんだっけ。
「なに勝手に決めてるの? 僕は突然理解の範疇を越えた君をテリトリーに置いておくなんて,普通に嫌なんだけど。ベルトゥス,君が何とかして」
お前の部下だろと,蘭華はベルトゥスを見る。
えっと声をあげそうになった私は,にこりと笑ったカイを見ていた。
「ベルトゥス·ボーン,俺があんたの尻拭いで動いたってこと,忘れた? 蘭華,俺は蘭華にもてなされにわざわざ来たんだけど?」
「もてなすとは言ったけど,何日も面倒を見るとまでは言ってない。寧ろ今は今すぐ帰ってほしいくらいだ」
カイがやれやれと首を振って,子犬のような憐憫を誘う目で私を見る。
何の権限もない私は困ってしまって,蘭華を見た。
「蘭華……だめ,かしら。カイの気が済むまででいいの,生活費は私の財産から出すわ」
だって,折角また逢えたのに。
それに,カイの動きは俊敏で,何より強い。
情報にも通じているし,勘だって働く。
前よりも明確に蘭華と過ごして貰えば,危機さえ伝えておけば。
もしかしたら前回のような瞬間がくる前になんとかしてくれるかもしれない。