ベルトゥスの言葉に,蘭華が鋭く制止を掛けた。
片足を立て降りようとした蘭華を,私が止める。
「ベルトゥス……私,大丈夫。だから聞かせて,あそこはどこで,何だったのか」
私が逢ったのは,たったの3人。
そのどれもが個性的で,存在が強く私の中に残っていた。
「あそこは,南の土地。俺達のテリトリーの廃病院だった」
えっと驚く。
半日も寝ていれば,馬車なら十分で。
私はてっきり,西のど真ん中辺りだと思っていたから。
夜雅の到着に時間がかかったのも,その自由な性格だけではないと分かる。
「付近の住民も……以前から誰もいないはずの病院に人の出入りがあることや,時折女の声が聞こえることを気味悪がっていたらしい。取り壊しが1度決まったものの,背の高い細身の男に脅されたと言っていた。そんなものにも気付けなかった俺の落ち度だ」
また頭を下げられそうな予感に,私は
「続けて」
と促す。
背の高い細身の男。
ダーレンね,と私はあの恐ろしくも呆気なく命を消した男を思い出した。
今さら脅しの1つや2つ,不思議でもなんでもない。
ベルトゥスに尻尾を掴まれないためとは言え,業者の命があっただけましだと思う。



