「ごめんね」
「いいんだよ,凛々彩。今はたっぷり甘えるべきだからね。それに,凛々彩は普段綺麗だった分ダメージが大きい。自分でやると傷になるかもしれないよ」
1度既に洗ってくれたと言う頭ももう一度洗って貰い,背中まで流して貰ってしまっている。
ヒリヒリする肌や垢を,何度も泡立てた泡で洗い流していった。
何度目か,私はただ大人しくしている。
誰かに洗って貰うなんて久々で,少し懐かしい。
「凛々彩は私の頃と違って見目もスタイルもいいからね。直ぐに目をつけられる。もう蘭坊っちゃんの側を離れるんじゃないよ。ベルトゥスのとこよりも,ずっと蘭坊っちゃんの方が安心できるからね」
流石はアンナ。
蘭華の信用を勝ち取っている彼女は,もうすっかり丸々と事情を知っている。
「あたし達の為だったのかもしれないけどね,凛々彩。どうせちょっと過ごしただけの仲なんだから。それより,蘭坊っちゃんを不安定にしないでやってくれ」
「……ごめんなさい」
「ただでさえ,奥様方の死体を発見したのは蘭坊っちゃんだったからね……蘭坊っちゃんは数少ない大事な人間なら,必ず迎えにいくに決まってる。その蘭坊っちゃんの前で,なんて,冗談でも勘弁しておくれよ」
「……ごめん,なさい」
知らない話と,私や蘭華への愛情を交えて。
アンナは静かに温かく語った。
今もまた,優しくさっき洗ったばかりの頭にお湯を掛けてくれる。
くしゃりと前髪を潰した。
まだ硬い前髪は,私の指に不快感を与える。
「そろそろ水に変えた方がいいかな?」
「ううん,アンナ。お願い,しばらくこのままにしておいて」
このまま,瞼なんてどうでもいいから。
私を,ずっと隠しておいて。



