「ん……」



目を開けるより先に,久しぶりの柔らかくや温かい感触に気がついた。

ボーッとして,喉が乾く。

目も,何故か目蓋が重たいせいで上がらなかった。



「っ凛々彩さんっ!!!」



ぎりぎり開いた薄目に,必死な形相のサムが映り,私の心臓が跳ねる。



「……サム?」



どうしたのと思いながら,私はそう言えば久しぶりだと思い出した。

徐々に自分の居場所を理解する。



「ここは,蘭華のお屋敷? 他の皆は……」



そうか,私は。

あの悪夢のような場所から,助け出して貰ったんだった。

権利も選択も奪われて,必死な中でダーレンが死ん……で。

夜雅の手に渡るよりも前に,私はここに戻ってきたんだ。

瞼の重さが,全てを現実だと思わせた。

早く,冷やさなきゃ。



「あっ,ダメですよ凛々彩さん。まだ半日しか寝てな」



おもだるい身体を起こすと,それとは別に重い要因があることに気づく。

重たく温かい人の体温。

その正体に直ぐ気がついた私は,サムに人差し指で合図をした。

いつからここにいてくれたのか分からないけれど。



「だめよ,サム。蘭華が起きちゃうわ」



顔を赤らめたサムは,言葉を飲み込んで。

何かを振り払うように顔を振る。

その動向を不思議に思いながら見ていると,サムはくるりと背を向けた。



「じゃ,じゃあ,俺はアンナを呼んできます。それまで絶対に安静にしていてくださいよ!」



私は蘭華の髪の毛に触れながら,うんと手を振る。

サムが走り去っていくと,私は目を開いたり閉じたりして,はぁと息をはいた。

ようやく落ち着ける場所だと全身が理解する。

アンナは氷,一緒に持ってきてくれるかしら……