私が未来を諦めたと同時,ダーレンが私の首筋に顔を埋め,大きく噛みつく。
痛みと嫌悪感に顔を歪めるも,こんなのもこの一瞬だけだと,私は小さく笑った。
ダーレンが私を抱くことは,ない。
ふと目を閉じた私の耳に,ばたばたとした音が聞こえる。
はっと目を開けた私は,思わず直前の選択を頭から弾き出した。
まさか。
そう思う横で,ダーレンは余裕そうに笑う。
「一体何をしに来たんでしょう」
暴れる私を見越してか,ダーレンは私を見向きもせず,四肢を使って私を強く押さえ込んだ。
「まさか,助けてもらえるとでも? もし仮にベルトゥスであったとしても,あなたを取り返しに来たとは限らないし,ベルトゥス如きに負ける場所でもないのですから」
今この場に置いて,侵入者は関係ないのだと。
突き放すように行為を続行しようとするダーレン。
私は,その言葉に目を丸くした。
私がここにいるのは,夜雅の望み。
拐われた時,場所はベルトゥスの南の組織の秘匿された場所だった。
その私を誘拐した目の前のダーレンは,私が元々は西にいたのだと,知らされていないよう。
もしかしたら,今乗り込んできたのは。
関係のない組織でもなく。
ベルトゥスと蘭華,どちらか一方でもなく,両方なのだとしたら。
優しく義理堅い2人。
もしこれが,ただの希望的観測でないとしたなら。



