但し、聞こえない程度に不満を呟いた。

「…バカ」

その一言に、心の底から怨念を込めた。

嫉妬なんて、女々しいし、みっともない。

だけどそれでも、初恋の人を奪う時雨が恨めしくて。

反面、未だに前へ踏み出せない自分が惨めで仕方ない。


「刻〜、刻はどう思う?私、可愛い?」

愛の声でハッとした。

時雨に褒められて上機嫌な愛は、僕の方へやって来ていて。

僕が投げた消しゴムが時雨に当たったとも知らずに無邪気に笑う愛。

その笑顔を向けられた途端、荒れていた心が穏やかになった。

あれ、僕、こんな単純な性格だったか?

おかしいな、と思いながらも、愛へ返す言葉は決まっていた。

ソレは、愛に世界一似合う言葉。


『可愛いよ』


人生で一番心を込めた気がした。

どうか、僕の精一杯が届きますように。





ー…僕が本心のセリフを言う前に。

実は、ほんの僅かに見せた僕の笑顔で愛が動揺していたことは、誰も知らない内緒の話。