このキョーダイ、じつはワケありでして。





玉ねぎ、にんじん、じゃがいも。

まな板に転がった野菜をじっと見つめてから手を洗って、兄ちゃんはキュッと水を止めた。



「部活かい」


「…じゃ、ない」


「小学校んときみたいに、ブスにいろいろ言われたとかね」


「…ちがう」



小学生の頃から私に対して心ない言葉を言ってくる存在を、兄ちゃんは“ブス”と表現する。

それは見た目のことを言っているのではなく、心の汚さを分かりやすく表現した方法なのだという。



「学校やめたい理由は?」


「………、」



言葉が喉につっかえて泣きそうになれば、「慶音」と、優しい音色で呼ばれる。



「っ、やめたいもんは、やめたい」


「んー。わかるけど、兄ちゃんにくらい理由教えてよ」



キスされた。

似てないって言われた。
腹が立った結果、つい手が出た。


先生にバレたら最悪、私が退学になる。


………なんて、言えるわけない。