「もしもし慶ちゃーん」
「…………」
「…なんかあったなら言いなさいて」
「……ない」
「じゃあこれ、何事?またセミごっこ?さすがに兄ちゃん重いんだけど」
今晩のメニューはカレー。
野菜の皮を剥く兄の背中に抱きつく土曜日、夕方。
数日前から妹の異変に気づいていたのだろう兄は、ようやくタイミングを見計らって聞いてきた。
「あと毎日必ず10分置きくらいにうがいしてんの、なに?」
「………消毒」
「消毒?手洗いうがいのレベルじゃないよあれ。それにおでこにも消毒してさ、兄ちゃんあんなの見たことない」
だって必要だから。
おでこもしっかり除菌しないと、毎日安心して眠れる気がしなくなった。
最悪だ。
もう、本当に……兄ちゃんにも言えない。
「……兄ちゃん。身長縮んだ?」
「…おまえが伸びたんだよ。たぶん」
毎日毎日こうしてくっついてると、小さな変化には気づかなくなる。
でもふとしたときに、あれ?って思ったりする。



