「まあ、1意見として流しといてもらえれば。じゃあそろそろ教室に───」
「慶音」
背中を向けたはずが、いつの間に戻されたのか向かい合っている。
まだ何かあるの…と、険しい顔を瞬時に作る暇もなく。
予想もしていなかった初めてが奪われるとは。
「…え…、ちょ───……」
そっと引き寄せられた後頭部。
やっと慣れてきた香水の匂い以上の柔らかさは、なぜか、どうしてか、私の唇に触れていた。
なんでそんな優しくて甘い、真剣な顔、してるんですか……。
「………、」
……なんだ………これ……。
伏し目がちのまつ毛は数えられそうだ。
整った顔に耐性がついている理由は、無意識にも兄と比べて見てしまう部分があるから。
なにもかもを理解しようとするうちにも、柔らかさはちゅっと可愛らしいリップ音を立てて溶けてしまった。
溶けたのに────…まだ、残っている。



