憂鬱だ。

ゆううつ、なのだ。


またこの感覚を味わう日がくるとは思わなかった。



「なーんか最近ずっとこんな感じでひっつき虫なんだよね。ほら慶音、部活に遅れるだろ」


「……もうちょっとね」


「“ね”って、兄ちゃんに拒否権はないのかい。ちなみにこれ、なんて名前の遊び?」


「セミごっこ」


「……すごい地味~」



ぎゅうううっと、兄の背中に抱きつく朝。


兄という存在がいて本当に良かったと心から思う。

もし私が一人っ子だったらこの生活をどう乗りきっていたことか。



「自分が高校1年生ってこと忘れちゃってんのかな?だいぶ恥ずかしいよおまえ。…咲良ちゃん、なにか知ってる?」


「い、いえ…、わたしはとくに…」


「そ?またなんかあったら教えて」


「わかりました…!」



そろそろ咲良にだけは話したほうがいいかもしれない。

あれから私は契約どおり、情けないことにそいつの犬(ボディーガード)として働いていることを。