呼び捨てされたかと思えば、兄じゃない男の腕のなか。

ふわっと抱きしめられている感触はどうにも落ち着かず、今すぐにでも逃れたい気持ちでいっぱいだ。



「……なんですかこれ。おい、」


「暴れない暴れない。それと女の子が“おい”はだめ」



腕のなかで暴れれば暴れるほど、遊ぶように引き寄せてくる。

下駄箱前、生徒や先生たちが目にしている、こんな場所で。


………さいあくだ。

いろんな意味で最悪だ。



「ボディーガード、なんかっ、勘弁してくださいってっ」


「キミの秘密、ちょーっと知ってんだよね俺」


「……ひみ、つ…?」



ピタリと、動きが止まる。

余裕そうな笑みを浮かべたチャラ男。



「慶音、この状況でも照れないんだ?」


「…なにを照れることがあるんですか」



むしろ迷惑だ。
さっさと離れてほしい。

そして気安く名前を呼び捨てするなど早急にやめてもらいたい。