「沙織さん、デートしようよ。今週末とかって空いてる?」
「えっと……、お客さんとはそういうものは、してはいけない決まり…ですので」
「うーわ今考えたよねそれ。じゃあもう俺には2度と来るなって?迷惑?」
「そ、そこまでは…言ってないです」
という会話に成長できたのも、じつは最近だ。
俺がほんの少し特別な目を向けるだけで逃げられつづけて、代わりにお母さんを差し出されたことすらある。
俺はあなたに惚れている。
そろそろチャンスくらいくださいよ。
慎重に手に入れることが面倒になって、強行突破だった。
「おーい沙織ちゃーん」
「あっ、いま行きます…!」
店内から酒焼けた男の声。
呼び寄せられるように、小走りで彼女は戻っていった。
「いいかげん呑み行こうよ」
「すみません…、お酒は苦手なので」
「そんなこと言わずにさあ。オレ常連だよ?客への顔も大事だろ?」
それは最近だった。
俺が顔を出すと80%の確率で60代の男がひとり、カウンターに寄りかかってはキッパリ断れない彼女を困らせている。



