車が、嫌いだった。
横断歩道が怖いとか、そうではなくて。

車に乗ること自体に緊張して、身体が強ばってしまう。


両親は事故でこの世を去った。

目が覚めたとき、私は病院だった。


明確な出来事と言われればそうかもしれないけれど、じつを言うと初めて車に緊張を感じたのはもっと前。



『もうすぐ会えるぞ慶音。楽しみだなあ。仲良くできるといいんだが…』



運転席に座る父親と、後部座席のチャイルドシートに座らせられた自分。

クマのぬいぐるみを抱えながら、ぎゅっと小さな手に汗を握っていた。


幼いながらに緊張を感じていて、バックミラーに映った父親の微笑んだ目元だけは覚えている。



『ーーーくんは大人しくて優しい子だと聞いているから、きっと大丈夫だよ』



いつから“物心”というものはつくんだろう。

母親の腕に抱かれた赤子のときの記憶があるという人もいれば、小学生からしか覚えていないという人もいる。


ただ私は、私の場合は。


気がつけば兄がいた。
母がいて父がいて、4人家族。

このとき3歳。


そこから始まったように思う───。