「…だれか待ち伏せ?」
「うん。四宮を」
渡り廊下の壁に寄りかかりながら言ってきたのは、クラスメイトの男子空手部でもある───天瀬 真幌(あませ まほろ)。
私のクラスの空手部は私と咲良と、そして天瀬のみ。
だからなのかお互いに同士のような特別感がどこかにあった。
おなじ中学出身、中学3年生からクラスも同じってのもある気がするけど。
「女子空手部期待のホープなのに」
「…なんのことかな」
「遅刻」
“期待のホープ”なんて言ってくるけど、私だって天瀬に言いたい。
この男も男子空手部にとって期待の星であり、中学の頃から試合では必ず上位に入賞し、必ず全国大会まで進んでしまう凄腕。
なのに空手の強豪校へ進学しなかったことだけが、私はずっと引っかかっていた。
「…したくてしたわけじゃない、けど」
「やっぱり。四宮のことだから人助けでもしたんだろうと思ってた」
「…………」
なんか、やりづらい。
居たたまれなさに言葉が詰まってしまうと、軽くふっと鼻で笑った天瀬。



