「もちろんお兄さんも来るんでしょ?」
「……誘ってないです今年は」
「え、なんで。高校初めての文化祭なのに?」
小学校の頃から保護者も参加できる学校行事には決まって来てくれたけれど、今年は誘っていない。
というより、いろいろありすぎて誘うタイミングを逃しつづけて今だ。
まあでも、これはこれでいいんだと思う。
むしろこれが普通なんだ。
「…兄ちゃんには兄ちゃんの幸せがあるから」
兄ちゃんには麻衣子さんがいる。
妹が兄を独り占めしていい歳はとっくに過ぎた。
私がいない時間くらいふたりで過ごさせてあげたいし、そうしないと麻衣子さんからまた現実を突き付けられそうで怖い。
完全に彼女は私にとってトラウマ級になってしまったわけだ。
「慶ちゃん」
その呼び方やめてください。
とは、言えなかった。
先輩は私に「悲しそうな顔」と言ったけど、たぶん正しくはずっと「寂しそうな顔」をしているんだと思う。



