とくに最近はボディーガードとして呼び出されるんじゃなく、ただこうして生徒の目のない場所で話すだけ。

どういうつもりなのかは分からないが、私も私で探ることなく過ごしていた。



「慶音さ。なんかあったでしょ」


「…ないです」


「そーんな悲しそうな顔しちゃって。…いろいろ我慢、してんじゃない?」


「ないって言ってます」



こういうときに限って放っておいてほしいところを突いてくる緒方 志摩。

覗きこまれた目を逸らしてしまうと、余計に優しい顔をされてしまった。



『…それができなくなった場合、ってことだよ』



あのときの先輩の言葉を今になって理解するとは、思ってもみなかった。


兄をもう、頼れなくなった。
そばに居ることも許されなくなった。

あの家で他人なのは麻衣子さんではなく、私なのだ。