『おまえ、俺のとこくる?』
行きたくもなかった施設の大人たちから手を離してくれたのは、紛れもなく兄だった。
俺のほうにきて───11歳だった私にはね、どうしてかそう聞こえたんだよ。
そーいうの、知らないでしょ麻衣子さんは。
でもあなたはきっと「それは勘違いだよ」って笑うんだろう。
「明日から部活が忙しくて帰りが遅くなると思うから……、ご飯、先に食べててもらって大丈夫です」
「ほんとう!?成海くんにも伝えとくね!」
兄ちゃんのご飯のほうが美味しい。
ふたりっきりの食事のほうが楽しい。
この家で初めて、“寂しい”と感じてしまった。
「慶音…?あれ?慶音は?」
「あっ、お部屋で勉強するって。成海くん?なにしてるの?なにか作るなら私が…」
「ジュース、次から酸っぱめの炭酸買ってやって。あいつが元気ないときって、だいたいはそれ飲ませれば機嫌良くなるから」
「……うん。わかった」
ごめん、兄ちゃん。
このおうち、出ていくよ私。



