『ねえ兄ちゃん』
『ん?』
『兄ちゃんは……わたしとふたりでタイクツする…?』
1回だけ、聞いたことがあった。
中学のときだっけ。
ふいに思って聞いちゃったんだ。
『退屈なんて、また難しい言葉覚えてえらいね慶ちゃん。でも…そんな言葉は覚える必要ないから忘れな。
退屈?だったら兄ちゃん、毎日おまえのためにご飯作るの楽しみにしてないでしょ』
言ってくれたんだよ。
そう言ってくれたんだ兄ちゃんは。
思い出がいっぱいあるの、この家には。
どこを見渡したって過去の私と兄が家族をして、笑っている。
「慶音ちゃん?」
ふたりきりだったから、自分が“邪魔”だと思われることすら考えてもいなかった。
兄ちゃんと私。
この家の主人公は私たち。
もう────…そうではなくなるってことか。
「そう…ですよね」
笑える。
他人がひとり加わっただけでこの有り様。
いいや“他人だから”ここまで私をズタボロに切り裂けるんだ。
兄ちゃんのことを大切にしてくれているなら、兄ちゃんの大切なものを同じように大事に思ってくれるんじゃないの。



