「ほら、今度母さんと父さんに会いに行ったとき報告もしたいし」
「……わかった」
「さすが兄ちゃんの妹」
11歳から伸ばしている髪。
両親にいつか会えるまでの願掛け。
ずっと続けている空手。
両親にいつかまた褒めてもらうため。
「じゃあふたりとも事故にだけは気をつけて。いってらっしゃい」
私の穏やかな1日はこうして始まる。
………いや、今日は穏やかではなかったか。
「け、慶音ちゃん…」
「…だれ?横?うしろ?」
「右ななめうしろのひと…、」
部活がある日もない日も、私と咲良が乗る電車は必ず満員電車。
今までも危ない瞬間は何度かあったけれど、私が威嚇しまくったことで逃れてきた。
しかし今日は特別だったようで、それはもうガッツリ堂々なんだと察するほど、震えた幼なじみの青ざめた表情。



