言わないでよ、そんなこと。
そんなこと誰よりも私がいちばん分かってるんだから、言わないで。
ずっと飲み込みつづけてきた気持ちは、こうも簡単に他人から言われてしまうものなんだと。
『急げって慶音!まじで時間ないって!教科書とかランドセル入れた?』
ドタバタする朝が好きだった。
朝に弱い私と、いつも忙しく走り回っている兄。
『えーっと連絡帳、今日の授業はなにがあんの、っと…、これ昨日のお便りじゃない?なんで出さないんだよそーいうの』
『…………』
『起きてる?うっそこれ寝てんの?座って寝られるなんて器用だねえ慶ちゃん。じゃないんだよ、ふざけてる暇ないんだって』
『……ふざけてない』
『おっと真面目に寝てたのかい。それこそふざけすぎだろ』
殺風景だったキッチンには、私が知らない食器や調理器具が揃えられていた。
テレビ台の横に置かれている観葉植物、広すぎた部屋がどことなく生活感を生み出し始めていること。
そんなものに、いま気づくなんて。



