「咲良ちゃんに聞けば、おまえが嘘ついてることくらい簡単に暴けるけど?」
「……いや嘘っていうか、嘘だけど…いろいろあって」
「いろいろって?」
「…………」
言えるわけがない。
とあるチャラ男に犬のように扱われていて、兄ちゃんも知っている人で、だからいろいろあるんだよ、なんて。
……言ったところでどうなる。
兄ちゃんのなかであの男は良く映ってるだろうし、あの日の彼が私も本物だと思う部分もある。
「ねえ。いろいろってなに?」
兄ちゃんが考える“いろいろ”は私のことじゃなくて、麻衣子さんとのことでいいんだよしつこいな。
自分でどうにかできることくらいはせめてどうにかしたい。
こんな嫌がらせ時間が経てば薄れていくだろうし、私がそこまで弱くもないの知ってるでしょ兄ちゃんなら。
「…慶音」
何度も名前を呼んでくれるとき、それは私を甘えさせようとしてくれているとき。



