私はちゃんと見ておかなきゃダメだったんだ。
兄ちゃんだけじゃなく、もうひとりを。
私たち兄妹をずっと見ていた麻衣子さんの、怒りや増悪を抱えこんだ顔を。
そして兄はとっくに、このときもすべてを分かっていたことを。
「ここはいいところね成海くん。スーパーも病院も近いし、保育園や小学校だって」
「ただのありふれた住宅街だよ」
「そんなことないわ。住みやすい町ランキングにも載ってるのよ?」
それから宣言どおり麻衣子さんは平日も来るようになって、週に3日から4日、5日と増えていき…。
とうとうほぼ毎日やって来ては3人で食卓を囲む日々となった。
ついには夜だけじゃなく、朝まで。
とうとう「よかったら合鍵を持たせて欲しいんだけど…」と言ってきたものの、兄ちゃんが首を縦に振ることはなかった。



