11歳で突然両親から受けることができなくなった愛情というものを、兄が代わりに担ってくれているんだと思う。
あの日で止まったままの、針。
「そういえば来月、授業参観あるんじゃなかった?」
「…たしか、ある」
「行っていい?一応は慶ちゃんの保護者だから、俺」
一応、じゃないよ兄ちゃん。
どこをどう見たって家族なんだから私たちは。
「……でも、うーん…」
「はははっ。おまえが超絶ブラコンってのはもちろん隠してやるから安心しろって」
そう、これは咲良以外には何がなんでも知られてはならない光景なのだ。
女子空手部では“期待のホープ”とまで呼ばれている私。
が、じつは超お兄ちゃんっ子かつ、ブラコンにブラコンを極めた人間だなんて知られたら高校生活が破綻すること間違いナシ。
もし誰かに見られてしまったならば、見破った存在の犬として生きることを誓えるくらいには。



