え……いや、だって私はこっちじゃなきゃダメって言ってきたのは麻衣子さんだ。
さっきと言っていることが正反対すぎて混乱だ。
すると兄は1つを食べただけで、また作業に戻るつもりらしい。
「ちょ、兄ちゃんもう食べないの?」
「おまえにあげる。俺甘いのそんな得意じゃないし、…なんか冷めた」
………最悪だ。
それを彼女さんの前で言うとか、デリカシーなさすぎる今のは最低すぎるよ兄貴。
「て、照れてるみたいで!兄ちゃんそういうとこあるっていうかっ、ほんとは嬉しくてたまんないくせに!あはは!」
もう笑うしか、あるまいて。
兄ちゃんは私のこの苦労をちっとも分かってない。
せっかくの出会いを、縁談を、破談にしないために試行錯誤している妹の頑張りってやつを。
「慶音」
窓を閉めるようにピシャリと放って、私を黙らせてくる。
「おまえ今まで俺のどこ見て育った?…ほらね、言った通りになったろ」
「え…、わっ!」
「生意気」
私のあたまをくしゃっと撫でた彼の表情は、とても切なそうだった。



