翌年の、12歳のバレンタイン。
ぜったい作らないと頑なな決意をしていた私に、兄は変わったやり方で妹をその気にさせた。
『じつは兄ちゃん、作ってみたいのあるんだよ。おまえには味見係を頼みたくって。あ、でも俺たちのために作るだけだから友達には余ったらあげよ慶音』
この日のために用意したのだろう雑誌。
私が傷つかないようにと自分が作りたい程(てい)を作って、兄は無邪気に私を連れてキッチンへと向かった。
女の子に大人気!と記載された、イチゴやホイップがたくさん乗った甘党しか好まないようなカップケーキ。
「変わってる……」
鏡に映った自分は、もう高校生になっていた。
成長していくにつれて過去は思い出に変わって、どんどん新しい記憶で塗り替えられてゆく。
悲しいことばかりじゃないね、きっと。
今日みたいに、今みたいに、新しい出会いがたくさんあるんだから。
そうだよね兄ちゃん。



