「うちに親がいないからって、そこまで気にかけてくれなくても大丈夫ですよ」
「…は…?」
見せないほうが良かっただろうか。
見せたことで今までのように接してくれなくなるのなら、隠し通すこともひとつの手ではあった。
気は、つかってほしくない。
「え、まって、まさか俺がそういう同情的な気持ちで慶音を心配してるって思ってる…?」
「ちがうんですか」
「ちがう、違うから。わかった?ちがうよ?」
何度も何度も言い聞かせて、しっかり目を合わせてくる。
また兄と重なって、大人しくうなずいてしまった。
「言っとくけど俺がおまえを気に入ってる理由はさ。…もう空手が強いからってだけじゃないからね」
よくわからない。
わからないけど、あの日、勉強会の日から先輩のイメージは私のなかでもほんのちょっとだけ変わってしまった。
偏見だらけで見ていた自分のフィルターをこっそり反省したのだ。



