「てか咲良(さくら)ちゃん来ちゃったって。胴着、忘れないよーに」
「…すごい。相変わらず6時40分ぴったしだ」
「関心してないで早くしろって」
毎日の決まった時間にインターホンを鳴らしてくれるのは、向かい側に住む幼なじみの結城 咲良(ゆうき さくら)。
保育園の頃からご近所付き合いを通じて仲が良く、彼女は私の所属する女子空手部のマネージャーでもある。
両親が交通事故で亡くなったあとも、咲良家には度々お世話になった。
「おはよう咲良ちゃん。いつもほんとありがとう」
「あっ、成海さんもいつもお疲れさまです…!」
「……いい子すぎない?慶音、おまえの空手はたぶん咲良ちゃんを守るためにあるよ」
「うん」
咲良はどうして私なんかと仲良くしてくれるんだろうって疑問に思うくらい、名前のとおりふわふわしているかわいい女の子。
まるで私とは正反対。
私がつめたい水だとしたら、彼女は春に咲くやわらかな花だ。



