「慶音、近いうちまた2人に会いにいこう」
「…ん」
お墓参りではなく、会いにいく。
優しい表現をする兄は、今となっては私の自慢すぎる兄だった。
高校へ入学して1ヶ月と少しが経っていた、
5月中旬の今日。
これは妹の四宮 慶音(しのみや けいと)と、兄の四宮 成海(しのみや なるみ)が繰り広げる、ちょっとだけ切ない朝の会話だ。
「兄ちゃん、仕事いそがしいの?」
「んー?」
「…メガネしてるから」
「あー、ちょっとね。締め切りが近いから夜中まで仕上げてた」
兄の部屋は2階に並んだ私の自室の隣なのだけど、私を起こすまいとするためか、そういう日は決まって1階で作業をしてくれる。
普段はコンタクトの兄が朝から黒縁メガネをかけているときは、徹夜で仕事をしていた証拠。
なんの仕事かは私も詳しくは知らないけど、危ないものではないとのこと。
ただ触ってはならない機材や楽器が揃えられていることから……なんとなーく察しては、いる。



