『慶ちゃん』
気が向いたらまた戻ってくるよ。
俺の周りにいる女はみんな料理が絶望的に下手だから、コンビニ弁当に飽きた頃に母さんの手料理くらいは食べにくるから。
そのとき空手、相手してあげる。
『あなたっ、あなた!こっちに来て…!』
『ん…?どうしたんだこんな朝はやくに───って、カメラカメラっ!』
『静かにしないと起きちゃうわ…!成海がいるなんて珍しいんだから…!』
『す、すまん…!』
………もう起きてるってば。
寝てんのは俺を抱き枕にしてる、ちっこいお姫様だけだよ。
─────カシャッ。
慶音、兄ちゃんと一緒に民事訴訟でも起こそうか。
たとえ家族だとしても盗撮はどうかと思いますって。
『ふふっ。どんな形だとしても兄妹ね~』
『ああ。こう見るとそっくりだな』
その写真は、事故で死んだ母さんの遺品のひとつだった。
彼女はずっと、息子と娘が写った1枚を宝物のように毎日持ち歩いていたらしい。



