「…いかり、」
「っ、理沙お嬢様、」
どれほど甘い声をして、なにかを求めて欲しがる顔をして、彼の名前を呼んでいたのかすら。
自分でも分かっていなかった。
頬が包み込まれる。
涙を拭ってくれていたはずの熱い手のひらが、撫でるような動きに変わって。
「…目を、閉じてください、理沙お嬢様」
「…いや…よ、」
「……わかりました」
なにを、する気なの……?
どうしてそんなにも熱しか感じない目をしているの……?
じっと見つめては見つめ返されて、ゆっくり、ゆっくりと唇は近づいてくる。
けれどギリギリのところで無理やりにも止まった動き。
「…続けてほしいですか、理沙お嬢様、」
「っ…、」
どうしてそんなこと聞いてくるの。
そう思ってるのはあなたじゃないの……?
「つづけて、ほしいですか。俺が、欲しいですか、…欲しいなら、もっと俺を求めてください」
「…いや、よ」
嫌なんかじゃなかった。
いつか佐野様とするくらいならあなたがいい、なんて思ってしまったくらい。
素直になれず、スッと逸らしてしまった目。
顔ごと背けようとすれば、くいっと戻されてしまう。



