「───理沙、待ちくたびれたよ」
それは、ある日の放課後だった。
いつもどおり校舎を出て寮であるマンションに向かおうとすれば、赤色をした高級車が停まっていて。
「……佐野…さま」
うそ、どうして。
帰国は来週だったんじゃないの……?
忙しいから舞踏会の前日に来ると、リモート対談では言われていたのに。
「仕事が少し落ち着いたから早まったんだ」
「…そう、だったんですか、」
「ははは。せっかく婚約者である僕が君のためにわざわざ来てやったというのに、つれない反応だ」
そういうところだ。
これがモラルハラスメントの初歩的なものだと、碇は言っていた。
「そこの執事、たしか…碇だったな。理沙は僕の婚約者として真面目に学業に専念しているか?」
「……はい」
「ん?なんだ?執事までそんな反応か」
たとえば、今このとき。
私の前に出て庇ってくれるような、そうじゃなくとも腕を少し引いてくれるような。
そんなものを求めてしまった自分がいた。



