『…わかってください理沙お嬢様。俺は、佐野様を前にしたら…耐えられるか不安なんです、』
『あなたと佐野様が並んでいるところを…、見たくないのです』
『もし男として言っても許されるのなら、───…佐野のところになんか行かないでくれよ』
佐野様はシンガポールから一時帰国してまで、この舞踏会に参加する。
だから踊らないわけにはいかないし、断るなんて選択肢すらない。
そんななか、私は少し想像してしまった。
執事の気持ちを考えることはお嬢様の役目でもあると思って、もし逆の立場だったらと。
碇が私ではないお嬢様と社交ダンスを踊って、いずれその人との結婚が決まっていて。
なんてことを考えたとき───…私は思わず泣いてしまいそうになった。
「失礼いたします、理沙お嬢様」
「っ…、」
戸惑う私に歩み寄られて、そっと手が取られて腰が支えられた。
少し前に同じベッドで背中から腕を回されたときと変わらない体温。
なのに、またそれ以上に熱くなった気持ちが見えた。
「私は社交ダンスもそこまで得意ではありませんが…」
「…別に、平気よ、」
「…よかったです」