これが私が碇を切り離そうとしない理由だった。
いまも私の前に跪(ひざまず)いて、上からではなく下から優しい眼差しで見上げてくれる。
右手を心臓に当てて、左手は背中。
それは執事がお嬢様に忠誠を誓うシルシ。
『私は理沙お嬢様の笑顔が大好きなんです』
『…それは…あなたが馬鹿ばかりをするからよ、』
『はい。それで笑ってくださるのなら、私はこれ以上の幸せはありません』
『わざとなの…?』
『あっ、いえっ、わざとでは、ないのですが…、』
照れたようにこめかみを掻いた碇。
うん、わざとではない確実に。
臆病者な小心者で泳げない、あれがわざとだったら彼はどれだけ器用なんだって話だ。
器用じゃないから、いいの。
『私はこれからも理沙お嬢様にご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが…、
それでもずっと、あなたのお傍にいます』
この男は超がつくほどに、根っからの良い人なのだ。
飾らない性格で、着飾ることすらできない不器用さで、まっすぐでヘタレで。
だから私は切り離せないんだと思う。



