もっと求めて、欲しがって、お嬢様。





「…俺は、お嬢様の仰せのままに動きますから」


「…動いてないじゃない…、いまも手、掴んでるわ、」


「それはあなたが“離して”と言わないから…です、」



なら、離して───。

そう言ったはずなのに、ぎゅっと余計に握ってくる。


臆病者の小心者で、泳げなくて、Cランク止まりで。

かと思ったらお嬢様に反抗する一面もあって。



「理沙お嬢様の指は、細くて長くてきれいです」


「……ピアノ、弾いたりもするからよ、」


「そうですね。また聴かせてください」



出会った頃からそう。

私がピアノを弾いていると、必ず傍で見守ってくれる碇。

終わると拍手をしてくれて、必ずその時その時に感想を述べてくれる。


ぎゅっと握られた手は、指をひとつひとつ確かめるように緩められて、また力を加えられて。



「あ、」



───と、昼休み終了のチャイムが響いた。


この高校は礼儀作法を徹底する高校。

チャイムが鳴ってから動くのではなく、鳴る前に席についていなければならない。


それはどの高校も同じかもしれないけれど、立派な花嫁になるための修行を重ねるお嬢様としてはありえない失態だった。