こんなこと今まで思ったことすらなかったのに…。
羨ましいって、思った。
本当に好きな人と恋をしているエマの立場を毎日のように間近で見ているからか、
最近の私は私らしくないことを思ってしまうようになった。
「どうかされましたか…?」
そこは宮殿のような学園内の、普段はあまり生徒たちが通らない非常通路に使われる螺旋状の階段。
柔らかい髪質をしたマッシュが、サラッと触れるように覗きこんでくる。
紺色のタキシードに合わせた朱色のアスコットタイは、私が15歳の頃に彼にプレゼントしたものだ。
そのとき目に涙を溜めるほど喜んでいた顔は、これを見るたびに鮮明に思い出すことができて。
「っ、なんでもないわ、ちょっと近いってば碇!」
「あっ、申し訳ございませんっ…!とても寂しそうな顔を…しておられましたので、」
「……怒られたの、」
「え…、」
気づけば高校2年生の3学期。
来年になればもっと婚約の話だって固まってくる。
「怒られたといいますと…佐野様に、ですか…?」
「他に誰がいるのよ」