もっと求めて、欲しがって、お嬢様。





私がピアノを弾き終わったあとのように、ひとつひとつ感想を述べてくる。

へへっと照れたように眉を八の字にさせる碇は可愛くもあるのに、それ以上に格好よくて困ってしまう。



「……もう1回、したいです」


「い、いやよ…」



私を腕のなかに収めながら初めての顔で見下ろしてくる執事は、ちょっとだけ意地悪な顔をした。



「……理沙お嬢様の“嫌”は、“して”という意味でしょう?」


「ち、ちがうわ!」


「今のは“そう”という意味です」


「っ、ちがうって言ってるじゃないっ」



余裕いっぱいなのが悔しい。

でも、

潤んでいる瞳、震えている手、全身を犯してくる甘さをギリギリのところで耐えている息づかい。


彼もいっぱいいっぱいだということ。



「ひゃっ…」



初めてのキスに止まってしまった涙の跡をなぞるみたいに、頬に柔らかく落としてくる。

くすぐったい、きもちいい、あったかい。



「…大好きです、理沙お嬢様」


「…し、知ってるわ」