切なそうな顔が映った。
どちらからともなく身体が離れると、自然と目が合ってしまう。
「…理沙お嬢様、」
「っ、」
あの日みたいに焦る気持ちじゃなく、私のタイミングを待ってくれる動き。
けれど急かす空気感のなか、碇の顔は私に重なってこようとしていた。
どんな感触なんだろう。
どんな気持ちになるんだろう。
好きな人と交わす、初めては。
「目は、閉じないのですか」
「っ…、はやくしなさいよ…っ」
「…わかりました。続けます」
閉じないんじゃない。
閉じるタイミングがわからず、結果として閉じられないだけ。
「…優しくしますから、」
「っ、いかり、」
心臓がどうにかなりそうだ。
この照明のおかげか、もう私の目にはそうとしか映っていないのか、碇が格好よく見えて仕方がない。
年上の男性にしか見えなくて、舞踏会での姿が頭のなかにずっとずっと浮かんでいる。
────がちんっ!!
「「っ……!!」」
唇ではなく、当たったのは歯。
お互いにびっくりしすぎて跳ね返った。



