婚約者では無くなったからか、殴った相手だからか、敬うことをやめたらしい。
あの気持ちに嘘も偽りもないため、肯定するように私は手当てに集中させた。
たまに消毒液が滲みるのか、顔を歪ませる碇。
「今のこんな俺のままでもあなたに必要とされているんだって、思いました。…ありがとうございます理沙お嬢様」
「……私こそ…、ありがとう」
包帯までは巻かなくても良さそうだったから、大きめの絆創膏をひとつ丁寧に貼った。
どこか似合ってしまう姿に、くすっと思わず笑ってしまう。
「…面白い、ですか?」
「ふふっ、ええ、これはこれで碇だわ」
「……あの、理沙お嬢様にとって俺は…どういうイメージなんでしょう」
「ヘタレで、残念で、格好つかない臆病者な小心者。それで、」
「ちょっ、ちょっ、もう十分ですお嬢様…!エマお嬢様に続けて心がえぐられますので…!!」
まだこれからが良いところだったのに。
ぱたんと救急箱をしまいながら、複雑そうな碇へと笑いかけた。



