もっと求めて、欲しがって、お嬢様。





「それは執事としては失格行為です。…ですので執事のランクは、Cランクからも降格にしてください」


「降格って…、じゃあDランクってことか」


「はい」


「…Sランク蹴ってDランク選ぶって……、お前やっぱすげえわ碇」


「ははっ、はい!」



碇らしい。
私はそれでいいと思った。

早瀬さんはミカエーラさんに今の一連の流れを知らせる。



「碇、そのバッジは持っていろと言ってくれてる」


「え、ですが…」


「もちろんお前が望むとおりDランクに降格とはなるが、1度言ったことを覆してはならないのも執事界の掟(おきて)だ。
それに…いつかにそれは役立つだろうしな」



困ったように息を吐いた早瀬さんと、どこか碇を認めたようにうなずいているミカエーラさん。

碇はバッジを大切そうに見つめてから、タキシードの内側に留めた。


だとしてもDランク。

お嬢様の婚約者に手を出してしまった執事は、Cランクより下のDランクだ。



「───碇、」



見守っていた私は髪に絡められていた朱色のアスコットタイをしゅるしゅると外して、居たたまれなさそうな執事の前に立った。