もっと求めて、欲しがって、お嬢様。





背中を向けていたエマの先。

右手を天井へ伸ばした男は、こぶしを作ってエマへ振り下ろそうとしてくる。


気づいたとしても身体は動かなくて、絞り出した声を聞いてくれる相手でもないこと。



「きゃあ…っ!!」


「なに、喧嘩…?」


「また破壊神よ…っ!!」



傍で見ていた生徒が佐野様の行おうとしているものを察して悲鳴をあげる。

それでも広すぎるホールのため、演奏は中断されなかった。

だから先生たちだって気づいていなくて。


そんなすべてがスローモーションに見えるなか、遠くから駆け出してくる音があった。



「エマお嬢様……!!!」



たとえSランク執事だとしても、この距離だ。


だめ、間に合わない……、


エマの頭上には成人済み男性の握ったこぶし。

せめて庇うことはできるだろうと、私はエマの腕を引いて抱えこむようにぎゅっと抱きしめた。



「理沙お嬢様…っ!!」



音楽に乗って聞こえた声は、心のなかでずっと助けを呼んでいた声。


─────バシッ!!!



「っ…、……、」


「……あれ…?痛く、ない…?」